「いい人でいなきゃ」と思いながら、気づいたら一日の終わりにぐったりしている。
そんな日、ありませんか。
頼まれごとに「大丈夫ですよ」と反射的に返して、
家に帰ってから「本当は断りたかったな」とため息が出る。
ここでいきなり結論を置くと、
何でも引き受ける「いい人」をやめる必要はありません。
ただ、その優しさを長く持たせるための「ゆるい境界線」を、少しだけ足してあげた方がいいです。
きつく線を引くのではなく、
自分と相手を守るための「ゆるい線」をいっしょに見つけていきましょう。
目次
「いい人でいなきゃ」が生まれる理由と、その裏にある本音
日常の中にある、小さな「いい人シーン」
たとえば、こんな場面を思い出してみてください。
・夕方、もう自分のタスクで手一杯のときに飛んでくる
「この資料、今日中にざっと見てもらってもいい?」
・仕事終わりに、疲れた頭で確認するスマホの通知。
「今度の飲み会の幹事できる人いないかな?」
・休日の予定をようやく入れた週に届く、家族や友人からの
「悪いんだけど、ここだけ手伝ってくれない?」
本当は「今日は無理かも」と思っているのに、
気づいたら口から出ているのはだいたい同じ一言です。
「大丈夫ですよ、やります」
その瞬間は、相手のほっとした顔を見ると、
自分も「役に立てた」と少しだけ温かい気持ちになります。
でも一日の終わり、電車の中でふと振り返ると、
「なんで全部引き受けちゃったんだろう」と、
自分の体力と時間だけが静かに減っているのに気づく。
このくり返しが続くと、
「いい人でいなきゃ」が、だんだん「いい人でいないと怖い」に変わっていきます。
「嫌われたくない」「空気を乱したくない」という防御反応
何でも引き受けてしまう裏側には、
たいていこんな本音があります。
- 嫌われたくない
- 面倒な人だと思われたくない
- 空気を重くしたくない
- 「頼みにくい人」にはなりたくない
これって、どれも「自分を守りたい」気持ちと、
「場を壊したくない」優しさが混ざった反応なんですよね。
だから、ここで「いい人ぶるのはやめろ」と自分を責めても、
心の奥は納得してくれません。
むしろ大事なのは、
「いい人でいようとする自分には、ちゃんと理由がある」と認めること。
そのうえで、
「全部受けなくてもいいよ」と言ってあげるために、
ゆるい境界線を足していくイメージです。
境界線は「冷たさ」ではなく「優しさを長持ちさせる枠」
境界線がないと、優しさごとすり減っていく
境界線がまったくない状態を、一枚の紙コップで想像してみてください。
誰の飲み物でも入れてあげる。
サイズオーバーでも、あふれるまで注がせてしまう。
机に置かれても、床に置かれても文句を言わない。
最初は「なんでも受け止めてくれるいいコップ」です。
けれど、そのうち縁がよれて、底がふやけて、
気づいたときには中身が漏れやすくなっています。
人も同じで、
「いつでも」「誰にでも」「どれだけでも」受け続けていると、
優しさの器そのものが疲れてしまいます。
すると、こんな変化が起きやすくなります。
- 小さな頼みごとにも、内心でイラっとする
- 断れなかった自分に、あとから強く自己嫌悪する
- 本当に助けたい人が現れたときには、もう余力が残っていない
これって、もともと持っていた優しさごと、
少しずつ削られてしまっている状態です。
「自分を守ることが、相手を守ることにもつながる」という発想
境界線は、相手を切り捨てる線ではありません。
「自分の中で、何をどこまで差し出すかを決める枠」です。
たとえば、
- 仕事の時間と、私生活の時間の線
- 今日使えるエネルギー量の線
- 自分一人で抱える範囲と、誰かに相談する範囲の線
この線をうっすらでも持っていると、
- 本当に必要な場面で、ちゃんと力を使える
- 余裕があるときに、自然な「助けたい」の気持ちで動ける
- 感情の爆発や、急なフェードアウトを避けやすくなる
つまり、
「自分を守る線」は、長く見れば「相手のための線」にもなっていきます。
ゆるい境界線のベースを作る、3つの土台
土台1:自分の時間とエネルギーは「有限」と認める
頭では分かっていても、
どこかで「自分だけは何とかなる」と思ってしまうところ、ありませんか。
- 多少寝不足でも、がんばればいける
- ランチを削れば、その分作業できる
- 土日も少し頑張れば、なんとか回る
この「なんとかなる」を積み重ねていくと、
気づかないうちに「当たり前ライン」になっていきます。
まずは、静かにこう決めてみてほしいです。
- 一日に使えるエネルギー量には、上限がある
- そのうち何割かは、自分のために残しておいていい
これはわがままではなく、
人として自然な前提です。
ここを「そういうものだ」と認められると、
「全部受けないといけない」という思い込みに、
少しひびが入ってきます。
土台2:「全部受けない自分」でも好かれていいと許す
次に大事なのが、
「全部にYESと言わない自分」を、嫌いにならないことです。
- 今日は体力的に難しいから断った
- 他の予定があるから、日程をずらしてもらった
- 自分より適任の人を提案してバトンを渡した
こういう選択をしたとき、
心の中にすぐ出てくる声はだいたい決まっています。
「感じ悪かったかな」
「冷たい人だと思われたかも」
「こんな自分はダメなんじゃないか」
ここで一つ、視点を変えてみます。
もしあなたの大切な人が、
体力的にも精神的にも限界ぎりぎりで、
それでも全部の頼みを受け続けていたら、どう声をかけたいでしょうか。
「もっとやりなよ」とは、きっと言わないはずです。
「全部受けなくていいよ」と言いたくなるはずです。
同じことを、自分にも許してあげていい。
そのための境界線なのだと、
何度でも自分に説明してあげてほしいです。
土台3:関係ごとに線の濃さが違っていていい
境界線というと、
「誰に対しても、常に同じルールを適用しなきゃ」と思いがちですが、
本来はもっとグラデーションがあっていいものです。
- 家族や親しい友人には、少しだけ線をゆるめる
- 職場では、役割や立場に応じた範囲で線を引く
- あまり深く付き合わない人には、できるだけシンプルな関わりにする
大切なのは、「誰に対しても平等」に見えることより、
「自分の器を壊さずに続けられるかどうか」です。
人によって線の濃さが違っていて大丈夫。
むしろ、その方が自然です。
実践編1:頼まれごとへの「ゆるい境界線」の引き方
即答しないだけでも、立派な境界線になる
頼まれごとが来た瞬間に
「はい」と言ってしまう癖があるなら、
まずはここからで十分です。
- その場で即答しない
- 一度、時間や手帳に照らしてから返事をする
たとえば、こんなワンクッションを挟みます。
- 「一度スケジュール見てもいいですか?」
- 「今日中じゃなければ、できるタイミングを考えます」
- 「他のタスクと合わせて調整して、あとで返事してもいいですか」
これだけでも、「何でも即受ける人」から、
「ちゃんと考えて答える人」という印象に変わっていきます。
そして、即答しない時間は、
自分の心にこう聞いてあげる時間にもなります。
「今の自分のエネルギーで、これは本当に受けて大丈夫?」
ここで「ちょっと無理かも」が出てきたら、
次のステップです。
YESとNOの間に、「条件付きOK」と「別案」を置いてみる
「受ける」か「断る」かの二択だけだと、
NOを選ぶハードルが一気に上がります。
そこで、間にグラデーションをつくっておきます。
- 条件付きOK
「全部は難しいですが、この部分ならできます」
「今日中は厳しくて、明日午前までなら対応できます」 - 別案提示
「このテーマなら、○○さんのほうが詳しいと思います」
「自分一人だと厳しいので、△△さんと分担する形ならできます」
自分の器を守りつつ、
相手の「困っている」も置き去りにしないラインです。
「完全に断る」よりも、
罪悪感がぐっと弱くなります。
罪悪感をやわらげる、やさしい断りフレーズ
とはいえ、どうしても受けられないときは、
ちゃんとNOを出す必要も出てきます。
そのときに使いやすい、やわらかいフレーズをいくつか置いておきます。
- 「ごめん、今週はもう手一杯で、ちゃんと対応できなさそうです」
- 「力になりたい気持ちはあるんだけど、今の状態だと中途半端になりそうで…」
- 「ありがたいお誘いなんだけど、今は自分の時間を優先したくて、今回は遠慮させてください」
- 「内容的にはやりたい気持ちもあるんだけど、今は他のこととのバランスが取れなくて…」
大事なのは、「やりたくないから」ではなく、
「今の自分の状態だと無理が出るから」という理由で伝えること。
それは、自分を守るだけでなく、
相手に対しても誠実な線引きです。
実践編2:人間関係ごとに線の濃さを変えてみる
自分の「やりがい搾取ポイント」を見つける
あなたが特に「何でも受けてしまいやすい」のは、
どの関係でしょうか。
- 上司や先輩
- 同期や友人グループ
- 家族やパートナー
- オンラインでのつながり
人によって、
境界線が薄くなりがちな場所は違います。
たとえば、
- 上司相手だと、評価が怖くて全部受けてしまう
- 家族相手だと、「家族だから」と自分の限界を超えてしまう
- 友人相手だと、断ったあとの空気を想像して動けなくなる
自分の「やりがい搾取ポイント」を知るだけでも、
次から少し構え方を変えられます。
「この人との関係は、線を少し濃くしたほうが長く付き合えるな」
そんな視点で一度、周りの人との距離感を眺めてみてください。
「何でも受ける自分」と「ゆるく線を引ける自分」の違い
最後に、二つの自分をそっと並べてみます。
- 何でも受ける自分
短期的には「いい人」「助かる人」として重宝される。
でも、疲れやすく、イラつきやすくなり、
ある日突然限界を迎えてしまうリスクが高い。 - ゆるく線を引ける自分
短期的には「頼みやすさ」が少し下がるかもしれない。
でも、長く関わるほど「この人は自分も大事にしている」と伝わり、
信頼が積み上がりやすい。
どちらが正解、という話ではありません。
ただ、長い目で見たとき、
自分の心と身体が持つのはどちらか、という問いです。
まとめ:「いい人でいなきゃ」を手放しても、優しさは残る
「いい人でいなきゃ」と思う気持ちは、
もともと、誰かの役に立ちたいとか、
場を穏やかに保ちたいという優しさから生まれたものです。
それを全部やめる必要はありません。
やめるのではなく、
その優しさを長く続けるために、
少しだけ「ゆるい境界線」を足していく。
- 自分の時間とエネルギーは有限だと認める
- 全部受けない自分でも好かれていいと許す
- 関係ごとに線の濃さを変えてもいいと知る
- 頼まれごとに即答せず、YESとNOの間にグラデーションをつくる
このあたりから一つだけ、
「これは試してみてもいいかも」と思えるものを選んでみてください。
いい人をやめる必要はなくて、
いい人のまま、無理を少し減らしていく。
そんな境界線を、今日このあとから
一本だけ、心の中に引いてみてほしいです。





